30ニート

30歳のニートがブログ

流行をまったく知らないことと、化粧をしないこと

わたしは、ほとんどテレビを観ません。一人暮らしを始めた23歳のころから、現在30歳の約7年……当初はテレビ自体を持っていなかったし、一昨年ひょんなことからテレビを手に入れましたが、野球と紅白以外はゲームをやるときにしか電源を入れないです。

ラジオも同様ですが、誰かが勝手に喋っているというのが苦手。カフェや電車で大きな声で雑談している人も、ガヤガヤとした居酒屋のような場所も苦手だし、家にいるときは音楽もほとんど聴かないほど無音に抵抗がありません。

 

さらにはWebのニュースも見ないので、徐々に世間離れしてきます。話題になっているアーティスト名を言われても、ちっともピンと来ない。テレビで人気の芸人のネタを披露されても、反応できない。そうなると、社会では損をするようなのです。

 

同僚との雑談は、テレビかニュースの話題に終始する

テレビを観ない、ニュースを読まない。そんな生活をしていると、会社で誰かが「昨日この番組でこんなこと言っててさぁ」と話していても、その輪に入れません。会社の同僚というお互いのことを深く知らない間柄でテレビやニュースの話題を外してしまうと、天気か個人的なことしか話題がなくなってしまう。あるいは、雑談を振りづらい相手と認識されて、話しかけられること自体が減ってしまうのです。

また、そのことをバカにしてくる人も出てきます。「こんなことも知らないの?」「社会人なんだからニュースくらいチェックしておきなよ」と、あからさまに上から物を言ってくる。当然かもしれません。社会の情勢がどうだ、政治が経済が、そういうことを得意げに話している人は頭が良く見えるものです。でも、仕事の優劣はニュースで決まるか、というとそうではないし、仕事内容によっては知らない方が綿密に作業できる場合もあると思います。

それが、文章に携わる仕事だと、わたしは思います。編集という仕事は、流行に敏感で、話題になっていることを素早くキャッチし世間に伝える仕事、という側面がありながらも、まったく知らない人にわかりやすく伝える、というスキルが必要になると思うのです。取り扱っているメディアや媒体にも左右されるとは思いますが、特に編プロなんていうのは、ジャンルが多岐にわたる場合が多いですよね。自社メディアならスペシャリストを目指して当然ですが、そうでないのならそれぞれのプロフェッショナルにはなれない、であれば無知な人間に伝える術を持ちたい。そうなると、まっさらな人間の強さが活きてくるはずです。

たとえば、これからダイエットを始めたい人に向けたメディアを作るとします。そこで、プロのインストラクターにインタビューをしたところ、トレーニングについて熱く語ってくれました。さて、記事に書き起こす際、彼の発言をそのまま文章にしたとして、読者にきちんと伝わるでしょうか。

有酸素運動無酸素運動、乳酸、超回復……ダイエット初心者には馴染みのない言葉が次から次へと繰り出され、いちいちコメ印がついて、小さな字で注釈が添えられている。それでは全文を読むどころか、注釈の多さで読むのをやめてしまうかもしれません。

 

そこで無知な人が、自分が読んでもわかるように噛み砕きながら、インタビューの内容を新しくまとめ直す。それぞれの言葉を自分で調べて、自然な流れで解説がされるように文中に組み込む。読者にきちんと伝わる文章へと変えていく。こうした作業を行なえば、世に出て意味のある記事になるはずです。

もちろん、頭のいい人なら、たとえ知っていることでも噛み砕き、わかりやすく伝えられるのかもしれません。でも、知っていることが多ければ多いほど、その作業が容易になるのかというと、そうではないはずです。もしかすると、乳酸という言葉を聞いて「乳製品の何かだろう」と早とちりをし、間違った解説文をつけてしまうかもしれません。知っていることだと、早とちりを起こさないように気をつけるのには非常に神経を遣いますが、最初から知らなければ、調べる他に手立てがないのです。

 

かつて、このような事態に陥ったことがあります。マーケティング関連の記事で「パイを分け合う」という表現を見つけて、違和感を覚えました。パイというのは、アップルパイのパイなのか? なぜ急にパイを持ち出してきたのか? それを同僚に聞くと、鼻で笑ってこう言いました。「パイを切るみたいにひとつのものを分け合う、ってことじゃないの」

それを聞いても意味がつかめず、インターネットで調べたところ、よくある使い方として「パイを奪い合う」という表現を見つけました。マーケティング用語のひとつで、限られた資源を取り合うこと、といった意味合いなのだそう。シェアを奪う、が近い表現だとすれば、「パイ」は「分け合わない」ものなんじゃないか? と、ふと思ったんですよね。分け合うのであれば、別の表現の方が適切なんじゃないか、と。

 

しかし、これを主張しても、同僚にはわかってもらえません。なぜかって、同僚からすれば「パイ、という表現すらしらない無知な人間」なのだから、これからわたしが何か言っても「無知な人間が弁解しようとしている」と思ってしまう。「そんなんで編集の仕事できんの?」くらい言われてもおかしくない。

これが社会というものなんだな、と思います。似たような感じで、電話口で「とんでもございません」と言っていた先輩に「とんでもない、が正しいと思います」と言ったら冷たい目をされたりと、余計なことを言うと、反感を買うものです。もし仮に、同僚に「パイって奪い合うとか、取り合うの方が正しい表現みたいだよ」と言ったら、「パイという表現すら知らなかったのに、何を偉そうに」と思われてしまうでしょう。

 

こんな風に、知らないということは、そのままバカにされることにつながります。でも、それにはもう一つ、要因があったと思います。それは、わたしが化粧をしないことです。

 

化粧をすれば、プライドが表現できる

わたしには大してプライドがありません。着飾ったり、背伸びしたり、そういったことが苦手です。その延長として、化粧もハイヒールも受け付けない。ファンデーション、口紅、チーク、ネイル、そういったものとは無縁の生活を送ってきました。

そのせいで、なにかと下に見られることが多いです。見た目が幼いこともあって、「こんなことも知らないの」と言いやすい相手なのだと思います。タメ口で話しやすかったり、ネタにしやすかったり、俗に言う「いじられキャラ」的な位置付けに収まりやすいのでしょう。

 

そのため、プライドの高さ、というのはまったく表現できません。キャリアウーマンのような格好をしていれば、ビシッとフルメイクをしてジャケットを羽織っていれば、わたしに軽口を言う人間は減るでしょう。それは、「この人のプライドを傷つけてしまうな」と思わせるための武装なのだと思います。

男性のスーツやネクタイ、きちんとワックスやスプレーで整えたヘアスタイルも、武装のひとつ。トレーナーにジーンズ、スニーカーで打ち合わせに現れた人間に対して、どんなプライドを感じるでしょうか。シワのないジャケット磨かれた革靴の方が、プライドを高く持って仕事をしているように見受けられるのではないでしょうか。

そこまでわかっていても、わたしは化粧をしません。ヒールの靴もパリッとしたシャツも持っていません。わたしの武器はプライドの低さだと思っているからです。簡単に話せる相手として、気安く仕事を頼める人間であることが、わたしの良さです。ガムテープはどこにあるのか、近くで手軽なコーヒー屋はあるか、ちょっと切手を買いに行ってくれないか。そんな些細なことを頼める、というのは、それはそれで良いじゃないですか。

 

武装しない、という武器を持つ

流行をわざわざキャッチしに行く人々を見ていると、話題という引き出しの多さを競っているように思えます。こんなことも知っているぞ、という彼らなりの武装に違いありません。

だからこそ、わたしは流行を知らないことを武器にします。何を聞いても真新しく、本心で「そうなんだ!」と言えるのは強みです。こちらからたくさんの質問ができるようになるし、質問されれば相手は嬉々として説明してくれるもの。だからわざと質問をします。「今の旬はなに?」「流行ってる芸人は誰?」「人気のアイドルは?」「ブームが来そうなファッションは?」

相手に興味がなくても、テレビを見ていればわかるような話題を問いかける分には、苦になりません。相手のことを聞いてもちっとも面白くないのであれば、こちらとすれば、何を聞いても同じなのです。それなら、より無難で答えやすい質問を数多くしたほうが、相手も気持ちよく答えられるし、会話の回数が増えれば「なんとなく話しやすい人」に認定されやすくなります。

知らないことが多いというのは、案外便利なのです。

 

おわり

同居人の彼も、わたしと付き合うまではテレビを観ていたらしいですが、今は観なくても平気とのこと。付き合い始めた当初、テレビがあるのにつける様子のないわたしを見て「観ないの?」と聞いてきましたが、「テレビは嫌いだから観ない」と言ったら、よくわからない顔をしつつも納得してくれました。

 

唯一テレビをつけるのは、ゲームのとき。同じ画面を見つめて、あの敵がどうとか、こういうルートで進もうとか、二人で進め方を考えている時間は、本当に楽しいです。クリアしても「あのシーンは感動だったね」とか「この台詞がこういう伏線でさぁ」とか、一緒に旅行でも行ってきたのか、くらいの思い出ができるので満足しています。30なので、化粧はそのうちしないといけない……かもしれませんが。